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名古屋高等裁判所 昭和45年(く)6号 決定

少年 I・K(昭二五・一一・一生)

主文

原決定を取消す。

本件を岐阜家庭裁判所に差し戻す。

理由

本件抗告の趣意は、抗告申立人I・H作成名義の抗告申立書に記載されているとおりであるので、これをここに引用するが、その要旨は、原決定の処分が著しく不当である、というに帰着するものと解する。

所論にかんがみ、少年調査記録をはじめ一件記録を調べると、少年は、さきに道路交通法違反の非行により、検察官送致決定二回、不処分決定、審判不開始決定各一回を受けたほか、昭和四四年二月一三日岐阜家庭裁判所大垣支部において、速度違反二件の非行により、保護観察処分を受け、その保護観察実施中に、原決定「非行事実」欄一、および二各記載の速度違反および駐車違反を犯し、同年九月一日前同支部において、家庭裁判所調査官の試験観察に付されていたのであるが、同試験観察中の同年一二月一四日原決定非行事実欄三記載の速度違反を犯したものであり、また前記保護観察の成績も芳しくなく、さらには、前記試験観察にあたつて定められた遵守事項を履行した形跡もなく、これらの事情に原決定説示のような少年の性格を併せ考慮すれば、少年を中等少年院に送致することとした原決定の意図はもとより十分に首肯できるのであるが、当審における事実取調べの結果をも参酌検討すると、原決定を契機として、少年にも、保護者にも、相当に深い反省の色が見え、とくに、保護者父I・Hは、従来の少年に対する監護保護に欠陥があつた点を悟り、今後自動車を処分し、少年を自動車運転に関係のない職業に就かせることを固く誓い、将来の少年に対する監督指導につとめることを誓約しており、今後少年にこの種事犯を反復させないという事情がうかがわれること、少年には、交通事犯に関する点は別として、その他とくにその素行上、非難すべき事情が存しなかつたことなどが認められ、これらに本件非行の内容を併せ考慮すれば、現在においては、原決定の当時とはやや事情を異にし、少年に対し、通常の社会生活を営ましめながら、これに適法な監督指導を加え、再犯の防止を期する余地が未だ残されており、この際、少年を少年院に収容して矯正教育を加えるよりも、前叙の手段により、少年の更生をはかることが相当と思われる。従つて、原決定は、この点において、少年に対する処分が著しく不当な場合に該当するものというに帰着する。

よつて、本件抗告は理由があるから、少年法第三三条第二項前段、少年審判規則第五〇条に則り、主文のとおり決定をする。

(裁判長裁判官 上田孝造 裁判官 藤本忠雄 杉田寛)

参考 原審決定(岐阜家裁大垣支部 昭四四(少)一六二二号同一七七七号、昭四五(少)一〇九七号、昭四五・四・一〇決定)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

第一、非行事実

少年は、

一、昭和四四年四月一五日午後四時ごろ、滋賀県伊香郡○○町大字○○地先国道において、法定最高速度時速六〇キロメートルを超える時速七六・五キロメートルで軽四輪自動車を運転した、

二、同年五月三日午前一〇時四五分ごろ、岐阜市○○町付近道路において、同所は公安委員会によつて駐車禁止場所に指定されている場所であるのに軽四輪自動車を約一時間一五分駐車させた、

三、同年一二月一四日午前一一時四四分ごろ、尾西市○○字○○○××番地付近道路において、同所は公安委員会により最高速度を時速五〇キロメートルに指定された場所であるのにこれを超える時速六四キロメートルで普通乗用車を運転した、

ものである。

第二、適用罰条

一および三の事実につき 道路交通法第一一八条第一項第三号(第六八条)

二の事実につき 同法第一二〇条第一項第五号(第四五条第一項第六号)

第三、要保護性

少年は、昭和四〇年九月無免許運転の非行を犯したのをはじめとして道路交通法違反を度々なし、当裁判所に係属した事件だけでも昭和四二年に交差点徐行違反により検察官送致決定、昭和四三年中には速度違反(三八キロ超過)により検察官送致決定、交差点優先車妨害により不処分、更に二回の速度違反(二〇キロ超過と一四キロ超過)により昭和四四年二月一三日保護観察処分を受けたものであり、右保護観察中に本件前記一および二の非行をなし、同年九月一日当裁判所調査官の試験観察に付されたにも拘らず、その観察期間中更に本件前記三の非行をなしたものである。

少年は、知能中の下で、運転適性に著しい欠陥、異常性はないが、三人兄弟の末子として育ち、未成熟人格で社会的人間としての自覚責任感に乏しく、一方潜在的に優越への欲求にかられやすい傾向にあるところから、遵法精神に欠け、とくに交通法規について安易な考えに支配され、自動車運転を好み、スピードへの逸脱を招いている。度々の処分にもこれを自己改善に役立てる資質に欠け、反省は乏しく表面的なものに止まり、試験観察中も車に執着しハンドルさばきを誇る気持を捨てえず非行をかさねた状態である。また、保護者は勤務先の選択、車の処分など少年の非行予防への保護態勢を全うできず、保護能力がないといわざるをえない。

以上の事実にてらし、少年の健全な育成のためには施設に収容し強力な指導の下に社会的成長を促すことが必要であると認められるので、少年法第二四条第一項第三号、少年審判規則第三七条第一項により主文のとおり決定する。

編注 受差戻家裁決定(岐阜家裁 昭四五(少)四九六八号 昭四五・六・一六 保護観察)

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